予定日を過ぎても陣痛が来ない… 【鍼灸医案シリーズvol.7】

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予定日を過ぎても陣痛が来ない… 【鍼灸医案シリーズvol.7】

2013-08-01

今回の鍼灸医案は『妊婦さんの予定日超過に対する鍼治療』です。

まずはカンタンに概略を・・・

■2人目出産の妊婦さん(34歳)

予定日を過ぎてすでに5日。

あと2日経っても陣痛が来ないようなら、
陣痛促進剤にて人為的にお産を促すとのこと。

しかし、前回(お1人目)のお産も促進剤を使った経験あり。
その時は、促進剤投与後・・・
陣痛は始まったものの、5日間にわたって産まれず
非常に苦しんだ経験をもつ。

できればあの時のような事態は避けたく
ここ数日、スクワット、拭き掃除、ウォーキングなどなど…かなり努力をされている様子。
なんとか、2日までにお産が始まらないか?というご依頼。

【↓脈証と腹証メモ】

■脈証
数、滑、実
両寸、特に滑が強い
両尺、両寸が内に入る。

■腹証
全体に充実した腹。
とりたてて虚の所見は見あたらないが・・・強いていうなら左腎水か…。
でも、同じ産み月の妊婦さんに比べても、虚の反応は少ない方といえる。

単純にお産を促す=陣痛を起こさせるという視点でみると
『三陰交、大瀉!!』で事足りるのだが…

※三陰交が妊婦さんにとって禁鍼穴たるゆえんです。
わが家でも出産前に3回とも使わせて頂きました。
もちろん、効果は良好。

…とはいえ、以下の2点が引っ掛かります。
1.陣痛がなかなか始まらないこと。
2.前回のお産のこと(超・難産)などの情報。

これらのことから判断して、
問題なく見える脈証も全面的に信頼するのに思いとどまる。

※初診であること、臨産であること
この2つの条件は素の脈を隠してしまうのに、十分な条件と言える。
そこで、まずは台座灸を公孫、三陰交、大巨(左右とも)に施灸。

その結果、右関上虚、左関上も微しく渋があらわれる。
寸口の滑は取れて、数脈も少し落ち着く。

これが本体の脈証と判断する。

まずはこの虚の反応を改善!
その後に三陰交大瀉すべき・・・と治療を行う。

右三陰交、右三里、左交信、左三陰交
基本的に全穴に補法。

【置鍼】

腎兪、胃兪、脾兪、右肝兪、心兪の3行線(補鍼)
※背部治療は側臥位で行う。

【置鍼】

抜鍼の後、脈が満ちてきたため
右三陰交に3番(すりおろし)で強瀉。

※お産間近の妊婦さんの三陰交の触れた感触は、
全体に浮腫ったような実を呈するように思う。
満ちてくる感じ。

その満ちた緩い実の中に堅い芯のような実があるので、
その芯スレスレに鍼をあてて、細かくひねる。

以上で治療終了。

三陰交の刺鍼中の時に、赤ちゃんが動き出したとのこと。

※胎動=お産の前兆という訳ではありません。
が、子宮・胎児へのなんらかの影響力があったと判断します。

なにより、お母さんの表情が痛い目に遭ったにも関わらず、爽やかでした。

逆子の治療でも思う事ですが、
『赤ちゃんのために、お産のためになにかガンバれる事がある。』

このように思ってもらうことでも、
妊婦さんの気持ちが良い方向に向かいます。
結果、良いお産に結び付くと考えています。

後日、電話で確認したところ、

治療後2日目にして、陣痛が始まって無事お産も済んだとのこと。
初産の時のように、5日もかかることなく、その日のうちにお産終了。

「安産でした(^^)」
・・・と、旦那さんが明るい声で伝えくれました。

※注)
このお産を促す治療を行う場合、以下の情報は確認しておくべきです。

同行者がいること。
妊婦さんの心の準備があること。
お産・入院する先の病院の所在。
妊婦さんのお身体にお産の準備ができているかどうか?

こういったことが不明のまま鍼することはおススメしません。

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古典を調べて、関連情報を集めましたのでピックアップして少し紹介しますね。

まずは鍼灸部門からいきましょう♪

=====
■中国鍼灸書

『鍼灸甲乙経』
女子字難、若胞不出、“崑崙”之主。

『鍼灸資生経』
“衝門”、治難産。(衝門、難産を治す)
子上衝心、不得息。(子(子癇の類)、上りて心を衝く、息するを得ず)

張仲文、横産ー手が先に産まれ出るーを治療す。
諸々の符(お札)、薬は(その効)捷やかならず。
右脚の小指の尖頭に灸すること三壮。
●(シュ)(火ヘンに主)は小麦大の如し。
火下りて、立ちどころに産す。

『鍼灸資生経』
崑崙、難産を主る。

『鍼灸大成』
難産、合谷(補)、三陰交(瀉)、太衝(補瀉については記載せず)

『鍼灸大成』
胞衣不下、中極、肩井

『鍼灸大成』
欲断産
灸右足内踝上一寸、合谷。
又一法、灸臍下二寸三分、三壮。肩井。

■日本古流鍼灸

『中条流伝』
・婦人、産を易くする灸法
縄子を以って右手の中指中節を斉しくし、外廉を量りて一寸を作り
再び二摺(しゅう)を加えて、亀尾に当て脊骨に貼けて直上し、
縄頭の尽る処に仮点す。
又、前縄を取りて更に両折と為し、其の半を断ち去り、半を用いて
その中摺の処を以って、仮点に直て、左右へ各々点記す。
十一壮を灸す。
此の穴は産み月に臨んで予め之に灸すれば、産難の患いを免ず。
※中条流は産科の名門。

『鍼灸廣狭神倶集』
難産の鍼
もし、産する事おそくして、日数を経て難産とならば、必ず子安の鍼を刺すべし。
先ず帯を頸にかけて、臍までとどかせて、届く処の帯に印をして、
又、その帯を後ろへ廻し、まんなかの届く処の脊骨に墨をつけて、その墨より一寸五分づつ開きて
真っ直ぐに二寸ばかり刺すべし。

亦、一切に両方の足を踏みそろえて、足の周囲を藁しべにて寸を取りて、そのしべを頸にかけて、当たる所の両方、各々三寸づつ開きて、刺すもよきなり。
又、前には、臍の一寸に刺すべし。
之に刺して、もし未だ遅くば、又それより両方へ二寸ずつ開きて、鍼尖を少し下へ向けて刺して、
次に三陰交、合谷に刺すべし。
又、京門に刺すべし。

『鍼道発秘』 芦原流
もし産すること遅く難産とならば、子安の鍼を用ゆべし。
痞根、章門、京門を深く刺すべし。
又、腎兪、大腸兪、陰陵泉、三陰交にひくべし。
合谷によくさすべし。
また、徹腹を深くさしておりる事、妙なり。

※徹腹は芦原流によく用いられる穴の名称。
柳谷素霊先生の註では・・・
「徹腹は奇穴なり。その部位に二説あり。
『因学奇兪』には背三行十四椎の間、背中を相い去ること左右各三寸、淵淵たる陥中、之を按ずれば能く腹に徹するの処と」なす。
『鍼灸茗話』には大腿部外側、風市穴の上方三寸之を按ずれば腹に徹する処。」

『玄奥』
催産、長強、石門

=====

と、ざっと見たところ、様々な配穴が挙げられています。

膀胱(胞と関係が深い)から攻めるパターン。
同じ膀胱へアプローチするにも、陰陽表裏のバリエーションあり。

気血の偏在を動かすアプローチあり。
(⇒よく言われる妊婦さんへの禁鍼配穴はこのケースだと考察できます。
肩井もこれに該当すると思われます。
そして、このことは次に続く、漢方部門とリンクできそうです)
★湯液部門

『知足斎十九方』
産前、大便硬き者の如きは間々産を致し難し。
宜しく当帰散、解毒丸を下すべし。

当帰散・・・当帰、芍薬(各三銭)、川芎、牡丹皮、甘草(各二銭)、茯苓(四銭)
上の六味を末と為す。

解毒丸・・・将軍(大黄)三銭、黄連二銭、黄芩二銭、山梔子一銭
以上の四味を末にし、打米糊丸とす。

『方輿輗』
○芎帰湯 『和剤局方』より
産前産後の諸疾および難産、催生、崩漏、胎動胎痛、皆この方を以って之を主る。
当帰 川芎
水煎じる、或いは、酒童便を入れて煎ず。

※この方、『外台秘要方第三十三巻』(唐 王燾)に出づ。
当帰六分、芎藭(川芎)四分
上の二味、水四升、酒三升半を以って煮る。
三升を取り、分けて三服す。・・・(後略)

○一條鎗治難産方
雲母(白色透明の者、二銭)、麝香(二分)
上の二味、水一合半を以って煮る。
一合を取り、温服す。
須臾にして、手で下に推す如し、効。

これ田間一醫の家に一本鎗と称して、深く禁秘する所の方なり。
吾師、故ありて傳を得て、屡(しばしば)、試験を経る。

按ずるに、・・・
千金方に云う、催生、易産、麝香一銭、水に研き服す。
立ちどころに下す(産す)

徳堂方に曰く、婦人難産、日を経て生れず。
雲母、半両、温酒にて調服す。口に入れて則ち産す。
順ぜざる者(逆産のことか)も即ち順す。
万に一も失わず!
蓋し、麝香も雲母も皆、古来より難産に取りはやせし神品なり。
今二品を配して一方と成し力を戮し能を逞する寸は、一本槍の名も亦何ぞ愧んや!?
惟、順ならざる者に至りては、産科巧妙に手に非ざれば為すこと能はず。
賀川二家に各々三世(代々)の専門奥道逸翩翩(達者たる)一時の選(優れもの)なり。
宜しく此れの徒と請うべし。

○桂枝茯苓丸
この方、産前に於いては生を催し、
生後に在りては、悪露停滞、心腹疼痛、或いは発熱憎悪寒をなす者を治す。
又、死胎を出だし胞衣を下す。
胎前産後諸雑症に功効、具述すべからず。
左に前哲一二の治案を録して以って之を実にす。

(一案略す)
明代、武之望『済陰綱目』に催生湯(即ち本方(桂枝茯苓丸)煎じて熱服す)
産母、腹痛、腰痛を候し、胞漿(破水のことか)下すを見わす。
方(まさ)に服せ。
これ瘀を逐い、産路を開くなり。
即ち是いわゆる症に随い宜を制するの法にして、俗醫用ゆる所の催生湯と同じからざるなり。
常に大黄を加うべし。

『賀川方轂』(賀川家は産科の名家)
○脱花煎(『景岳全書』)
凡そ臨盆将に産する者、宜しく先に此の薬を服し催生すべし、最も佳。
産難経日、或いは死胎不下を治すること倶に妙。

当帰 肉桂 川芎 牛膝 車前子 (各大)
紅花(中)催生、之者用いず。
上の六味、水煎して温服、服した後に飲酒するも亦妙。
気虚に因り劇しい者、人参を加う。

○如達飲(家定)
妊婦臨盆催生および新産調理通治の方なり。

当帰、黄耆、桂枝、川芎(各大)
上四味水煎。

『婦人大全良方』(中国宋代 陳自明著)
救産難経日不生。(難産、日を経るに産まれずを救う方)
○雲母粉(半両)
温酒に調服す。口に入れて當に産す。
順ぜざる者も即産す。万に一も失わず。
(この方で三~五千人をすでに救っている…とのこと)

湯液・本草で見ると、補虚・瀉実と明確に分かれているのが読めます。

当帰、川芎、黄耆などは補薬。
対して麝香(じゃこう)は気を走らせ閉・滞を開く薬です。

それぞれ、上に挙げた配穴でいうとどれに近しいものか?イメージしやすいと思います。
さらに中医学以外の文献です。
『大同類聚方』

■阿礼介乃方 鳥麻呂乃方
(あれけの方)※あれけ=生れ気(産気づくの意)

阿礼介(豆支弓)未産(礼)者、加布須 支良以之 二味(乎)研(支)粉(爾而)水(爾天)可与之。
あれけ(つきて)未だ産ま(れ)ざる者、カフス、キライシ 二味(を)研(き)粉(にし)水(にて)之を与う。

加布須とは麦門冬
吉良以之とは雲母のこと。

ここにも雲母が用いられています。

なかなか興味深いです。
まだまだ学ばなければいけないことがたくさんあります。

『大同類聚方』は日本人なら知っておかなければ…!という書物です。



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